フランスの街角を歩くと、芳ばしい香りに誘われてついついパン屋に足を運んでしまうことがあるかもしれません。その香りの主役ともいえるのが「バゲット」です。細長い形状でパリジャンたちの生活に欠かせない存在となっているバゲットですが、その歴史と進化を知ることで、さらにその魅力を感じることができるでしょう。
バゲットの起源は、19世紀初頭のフランスにさかのぼると言われています。それ以前のフランスでは、パンは丸い形状のものが主流でした。しかし、フランス革命後の政治的混乱や経済状況の変化に伴い、パンの形も変わっていきました。1815年にウィーンからもたらされた製パン技術が、バゲットの誕生に大きく寄与したとされています。この技術により、より軽くて空気を多く含むパンが焼けるようになり、細長い形状のバゲットが誕生しました。
バゲットがフランス中に広まるきっかけとなったのは、1920年の法律の改正でした。それまでパン職人は夜中に仕込みを始め、朝に焼き上げるのが普通でしたが、新しい労働法によって夜間労働が制限され、早朝から焼き始めることができるパンが必要となりました。この時、バゲットの短時間で焼ける特性が重宝されることになり、瞬く間にフランス全土で愛される存在となりました。
バゲットは、そのシンプルな素材と製法にもかかわらず、非常に奥深いパンです。小麦粉、水、塩、酵母という基本的な材料から作られるこのパンは、職人の技術によってその風味や食感が大きく変わります。外はパリッとした食感、中はもっちりとした柔らかさ。その絶妙なバランスを作り出すには、経験と熟練の技が必要です。
また、バゲットの進化も見逃せません。近年では、全粒粉を使ったヘルシーなバゲットや、特別な酵母を使用して風味を増したものなど、多様なバリエーションが登場しています。これにより、伝統的なスタイルを守りつつも、現代の食文化や健康志向に対応した新しいバゲットが多くの人々の注目を集めています。
フランスでは、バゲットはただのパンではなく、生活と文化の一部です。家庭での食事やピクニック、カフェでのひとときなど、様々なシーンでバゲットは欠かせない存在です。これからフランスを訪れる方や、パン作りに興味を持たれる方は、このバゲットの歴史と進化を知ることで、さらにその魅力を楽しんでいただけることでしょう。